【はまって、はまって】バックナンバー 2014年  江崎リエ(えざき りえ) 

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はまってはまって

江崎リエ(2015.01.03.更新)




ありあけハーバー 黒船ショコラ


東京ばな奈


ごまたまご
ありあけのハ〜バ〜を初めて食べる

 先日友人から、お菓子のお土産をもらった。

 「ありあけのハーバー」

 子どもの頃から知っているお菓子だし、「ありあけのハ〜バ〜」というCMソングもすぐに頭に浮かぶ。しかし、なんと食べるのは今回が初めてだった。身近すぎてわざわざ買う気もせず、いただく機会があってやっと味がわかった。食べる前は「たいしたことのないカステラ」というイメージだったのが、カステラの中にあんこが入っていて、和洋折衷のおいしいお菓子だった。「ごめんよ、こんなにおいしかったのね」というのが正直な感想。

 思えば、「東京ばな奈」も「ごまたまご」も、食べたのはつい最近だ。昔の「土産物にうまいものなし」という考えが刷り込まれていて、東京駅で「東京土産」という幟の立つ店を見ていても、買って食べてみようという気にはならなかった。東京に暮らしていると、東京土産をもらう機会もないしね。このふたつも食べてみてびっくり、なかなかのおいしさだった。

 おばあちゃん子だった私は、子どもの頃は祖母がもらう和菓子を分けてもらって、いろいろ食べていた。祖母は福岡で教師をしていたので、退職して東京に出てきて私たち家族と暮らすようになってからも、折りに触れて教え子さんたちからの進物が頻繁に届き、福岡名物の和菓子となじんでいた。大人になってから、「あれは有名な和菓子だったのね」と知ったものがいくつもあったけれど、もう名前を忘れてしまった。今ならブログなどにアップするだろうから、後から調べられるのだけれど。

 祖母が亡くなり、私が大人になってお酒を飲むようになって、和菓子を食べる機会は激減した。その後に出た和菓子は、デパートで見たりCMで聞いたりしていても食べたことのないものが多い。このように、「名前はよく知っているけれど、実は味を知らない」というものはまだまだありそうだ。12月22日に歳を取ったので、この新しい1年は「見てはいたけれど食べたことのないもの」の味を探求してみようと思っている。

ありあけのハーバーCM 由紀さおりが歌っていた
(えざき りえ)







はまってはまって

江崎リエ(2015.02.04.更新)










芝居の楽しみ

 芝居と映画、どちらが好きかと聞かれれば、圧倒的に芝居が好きだ。なぜなのか深く考えたことはないのだが、「自分の目の前で生身の役者が動いている」ということに独特の魅力を感じる。子どもの頃の体験も大きいのかもしれない。なぜか母が芝居のチケットをもらう機会が多かったらしく、私は子どもの頃によく日生劇場に連れて行ってもらって、シェークスピア劇を見た。「初めて見た演劇」は、私の心に「きらきらとしたすてきな別世界」を強く印象づけた。洋画好きだった夫は「子どもの頃、母に連れられて町の映画館に通うのが一番の楽しみだった」と言っていたから、人の好みには「子ども時代のきらきら経験」が大いに影響するのかもしれない。

 というわけで、私は大学時代からいろいろな芝居を見ている。高いチケットは買えないのでマイナーな劇団の芝居が多いが、どちらかというと前衛劇が好みなので、年に2本くらいはすばらしい舞台に出会ってきた。

 そこで、最近見た芝居を少し紹介しよう。

「バベルクラブ定例集会」シアター・カイ 
 カイ・バベル・アンサンブル公演
 これは多和田葉子の「動物たちのバベル」を原作にしたもので、セリフよりは体の動きを重視した構成・演出だった。

「HATTORI 半蔵」築地本願寺ブディストホール
 スパイラルチャリオッツ公演
 和の国ジパングを舞台にHATTORI半蔵と伊賀、甲賀組が争うというストーリー。殺陣が多く、これも体の動きが見せ所の芝居だった。

「親族旅行記」 下北沢駅前劇場
 親族代表公演
 これは芝居ではなくのコント8本で構成された公演。8本のコントの作家が全部違うのでテイストは一定しないが、言葉や状況のずれがおもしろかった。

 「芝居は娯楽でいいのか」「芝居で何を発信するのか」「そもそも芝居とは何か」など、芝居を見終わるといろいろなことを考えるが、それも含めてが芝居のおもしろさだと思う。今年1年、どんな役者や演出家、舞台に出会うことができるか楽しみだ。
(えざき りえ)







はまってはまって

江崎リエ(2015.03.04.更新)







風邪か花粉症か

 一昨年から、3月になると鼻水とくしゃみが出るようになった。年初からの仕事が一段落する時期なので、ほっとして風邪をひきやすいということもある。暖かい春を待ちわびているので、3月になったとたんに春らしい服装をして体を冷やすということもある。でも、冬の風邪よりくしゃみが頻繁に出て、いつものように扁桃腺がぱーっと腫れるのではなくて、喉の奥がいがいがする。

 一昨年は風邪だと思って医者に行った。症状が軽かったので、薬ですぐに治ると思ったが、あまりよくならず、でもひどくもならず、1か月くらいで治った。昨年は、「ついに私も花粉症になったか」と思っていつもの医者に「もしかして、花粉症では?」と聞いてみた。しかし医者は、「目がかゆいとか、涙が出るという症状がないから、花粉症ではない」と、きっぱり言う。私も花粉症にはなりたくないので、その言葉を信じることにした。「花粉がたくさん飛んでいると、花粉症じゃなくても、くしゃみくらい出るよ」とその医者は言う。「それだと、このくしゃみは風邪のせいじゃなくて、花粉のせい?」とも思ったが、それは言わずに風邪の薬をもらってきた。この時も、あまり薬は効かず、ほっておいたら自然に治った。

 さて、今年も3月2日に締め切りのある原稿を送ったところで、仕事は一段落した。外の光も明るく春らしくなったので、軽い服を着て脚を見せて歩きたい。しかし、気温はまだまだ低く、冷たい北風が吹いたりもする。いつもここで油断して風邪を引くので、今年は用心しようと思っている。しかし、3、4日前から鼻水とくしゃみが出始めた。今年は「花粉症ではないけれど、これは花粉の影響」と思って医者には行かず、鼻を洗って様子を見ることにした。

 鼻を洗うのは「ネーティ・ロタ」といって、ヨガで教わった方法だ。片鼻からぬるま湯を入れ、反対側の鼻の穴から出して洗う。鼻が詰まっている時は鼻水が出て鼻の通りがよくなる。鼻が通っている時も、眉間の辺りまで空気が通る気がして、すっきりする。ネーティ・ロタは、風邪を引いた時や短時間で集中して原稿を書かなくてはいけない時によくやっているので、今年は春の鼻水対策に使ってみるつもりだ。

 花粉症の話をすると、「年を取ってからなった」と言う友人も多い。年齢を重ねるといろいろな感覚が鈍って、若い人ほど花粉に敏感に反応しなくなるのではとも思うが、免疫力が低下して、いろいろなものに反応するようになるのかもしれない。今年もなんとか花粉症から逃れて、明るい春の光を楽しみたいものだ。

ネーティ・ロタのやりかた
(えざき りえ)







はまってはまって

江崎リエ(2015.04.03.更新)




4月1日、上智の土手の桜


4月2日、散歩道の公園の桜


4月2日、散歩道の川沿いの桜
桜について、思うこと

 急に暖かくなって、桜が満開になりました。昨日は四谷の土手、今日は家の近くの善福寺川緑地を散歩して、桜を満喫してきました。今年は1、2月が寒かったせいか、ことのほか暖かい春が待ち遠しくて、春の象徴である桜が早く咲かないかなと思っていました。今年はもう一つ、3月の初旬に京都に行って、「ああ、桜の季節ならさぞ美しいだろうに」と思うお庭をたくさん眺めて来たので、桜を心待ちにする気分が倍増しました。そんなわけで、今年は例年よりも熱心に花見に行く気になっています。
1月の善福寺川緑地の桜の木
 私は子どもの頃は桜が嫌いでした。「大人たちはなんでそんなに桜に騒ぐのか」と思っていました。大人になってからも、桜は飲み会の口実でした。「まあ、きれいだけれど、特別に騒ぐほどのものでもない。でも、桜の下で飲むのは楽しいからお花見をしよう」という感じ。子どもができてからは、家族で花見、お母さん仲間で花見、子ども関係のサークルでの花見などの機会ができ、牧歌的な花見を楽しむようになりましたが、そこでも主役は桜ではなくて、おしゃべりだったりお料理だったり、花見という雰囲気だったりしました。
4月2日、同じ木が満開に。
この変貌ぶりが桜の魅力かも
 ところがここ数年は、「純粋に満開の桜の花の下にいたい」と思うようになりました。なぜか桜のトンネルに入ると、周りに人がたくさんいるのに、自分だけがはらはらと落ちる花びらの下にいるような独特の静けさを感じるようになりました。これが年を取ったということなのかもしれません。私の祖母は、毎年桜の季節になると「桜はいいねえ、来年も桜をみられるかねぇ」と言っていました。祖母が大好きだった私は、死を暗示するこの言葉が大嫌いでした。しかし、今は祖母の気持ちがわかります。多分祖母は、そういうことが自然に言える年齢だったのでしょう。私は祖母の年齢まではだいぶ時間があるので、しばらくは満開の桜を純粋に楽しもうと思っています。
(えざき りえ)







はまってはまって

江崎リエ(2015.05.01.更新)




箱根公園の豆桜


かわいい小さな花が満開です


箱根神社入り口、桜はありません
もう少し桜を楽しみたい

 先月、ここに「今年は花見を満喫したい」と書きました。しかし、4月前半は寒い日が続き、しかも雨の日、風の強い日も多く、「満開の桜をたくさん見たい」という気分は満たされぬまま、東京の桜の季節は終わってしまいました。その時は「しかたがない、これからは新緑を楽しもう」と思ったのですが、桜前線北上のニュースを聞くにつけ、もう一度くらい桜を楽しみたいと思うようになり、4月半ばに箱根に行ってきました。
箱根園入り口の桜も満開
 私の頭の中には「青空に美しい新緑、遅い桜に富士山」の美しい光景が浮かんでいたのですが、行った日は曇りのち雨。富士山は見られませんでしたが、満開の豆桜(富士山や箱根近辺に自生する桜の野生種の1つだそうです)、まだ花を残したソメイヨシノなどを見てきました。新緑にもまだ少し早い時期でしたが、箱根登山電車から見た楓の若葉が美しく、これからは青紅葉を眺める旅もいいなと思いました。

 出かけたのは4月19日。新宿から小田急ロマンスカーで箱根湯本へ。湯本からは登山電車で強羅、ケーブルカーで早雲山、ロープウェイを乗り継いで桃源台へ。子どもの頃に家族で乗ったのを思い出します。桃源台からは海賊船で箱根町港、ここから歩いて箱根公園へ。箱根公園には様々な桜があり、豆桜が見頃という情報があったからです。期待通り、箱根公園の入り口には豆桜が咲いていました。満開ですが、名前の通り花が小さいので、ソメイヨシノのような華やかさには欠けます。ここから箱根神社を訪ね、その後は「湖畔の一本桜」が有名だという箱根園へ。箱根園入り口には満開の桜があり、「これが一本桜?」と思ったら、違いました。湖畔の公園へと下って行くと、そこに見事な桜の木があり、大勢の観光客が写真を撮っていました。さすがに名物と言われるだけあって、枝振りの美しい立派な木です。曇りなのが残念でしたが、これを見ただけで箱根の旅は満足と思えます。久しぶりに訪ねた箱根は思った以上に魅力的でした。
湖畔の一本桜は満開を過ぎていますが、枝振りが見事

(えざき りえ)







はまってはまって

江崎リエ(2015.06.16.更新)




北野天満宮 御土居の青もみじ


永観堂のお庭 苔がきれい


永観堂のお庭の弁財天
京都で青もみじ三昧

東福寺入り口の橋、臥雲橋から見たもみじ
 5月の連休に京都旅行に行ってきました。今回のテーマは「青もみじ」。京都は紅葉の美しさで知られていますが、紅葉が美しいということは、カエデの木がたくさんあって、新緑の季節も美しいということ。私は、若葉がぐんぐん伸びて、命のエネルギーが感じられる5月の樹木が大好きなので、「今回は京都で新緑のカエデを見よう」と思い立って出かけました。  そのきっかけになったのが、北野天満宮「史跡 御土居の青もみじ初公開」のニュースでした。これまで紅葉の時季にはやっていましたが、新緑の季節は初公開だそうです。そこで、5月5日、京都の初日は北野天満宮へ。赤い橋の下を小川が流れ、その両側に覆い被さるように繁る青もみじの美しさは格別でした。  翌日は、紅葉の名所南禅寺と永観堂へ。永観堂は、秋は観光客で一杯ですが、この時期は人も少なく、広い庭をゆっくり歩くことができて穴場だと思いました。緑の苔がきれいで、のんびりしてきました。
泉涌寺別院 来迎院入り口
 そして、3日目は東福寺へ。ここも紅葉の名所ですが、カエデの木が多いので,新緑も見応えがありました。東福寺はお庭が個性的。塔頭も多く、ゆっくりと楽しんできました。今回初めて、近くにある泉涌寺にも寄り、別院の雲竜院、来迎院のお庭も見てきました。来迎院の「含翠庭」は小さなひっそりとしたお庭で人の気配がなく、目の前にただただ青もみじと青い苔が広がって、夢のような世界でした。桜と紅葉の季節は観光客で賑わいますが、新緑の京都もおすすめです。
来迎院 含翠庭

(えざき りえ)







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江崎リエ(2015.07.02.更新)




1軒目のパエリア


2軒目のパエリア


3軒目のパエジャ
お店はここです
おいしいパエリアが食べたい気分だった

 パエリアが大好きというわけではないのだが、たまに食べたくなる。今月初めはそんな気分だった。ちょうど家の近くの駅ビルの上にスペイン料理店が開店。ランチ1200円のパエリアセットが目玉。サラダも付くしコーヒーも付く。  

 「ちょっと高めだけれど、久しぶりにパエリアを食べようかな」と思って入ってみた。まあ、値段相応なのだろうけれど、シーフードが貧弱。味もまあまあ。赤いテーブルクロスがすてきな広い店でのんびりしたので、味よりも雰囲気にお金を払った感じ。  

 しかし、一度「おいしいパエリアを食べたい」と思った心は満足しない。そこで翌日は散歩の途中でみつけたスペイン料理店に入ってみた。サラダ、コーヒー付きで980円。ここも失敗。ちょっと遅い時間に入ったので、オーナーとミニコミの営業が話をしていたのだが、オーナーはインド近隣の出身で、キーマカレーなども出しているという。まあ、スペイン人だからおいしいスペイン料理が作れるというわけでもないけれど、ちょっとがっかり。

 そこで、友人に「おいしいパエリアが食べたい」と訴え、夜に一緒にスペイン料理店へ。そこのパエリアはとてもおいしかった。値段もランチよりはずっと高いので、最初の店も「夜に来てくれれば、おいしいのを出しますよ」と言うかもしれないが。シーフードに目を引かれるけれど、おいしさの要はごはんの味。魚介スープのコクのある炊き込み具合が絶妙だった。

 ところで、最後のレストランのメニューの表記はパエジャ。ネットで検索してみるとスペイン語の表記はPaella、スペイン語ではllaはジャと発音するので、発音はパエジャ、またはパエージャになるらしい。この表記が英語圏に入って、パエリアになったのか? でも、そのまま英語読みしたらパエラだよね。

 もうひとつ、ネットで知ったうんちく。パエジャはバレンシア地方発祥で、Paellaとはフライパンのことなんだって。あの、パエリア鍋(パエジャーラというのだそう)で炊くと、それだけでおいしそうだものね。  

 スペイン土産にもらったパエジャの素があるので、今度は自分好みのものを家で作ってみようかと考えているところ。
(えざき りえ)







はまってはまって

江崎リエ(2015.08.04.更新)


ツールを見ながらつくった人形の服








ツール観戦と人形の服

 ここ数年、7月の恒例はツール・ド・フランスを見ることです。フランスを一周する自転車レースですが、最近はスタート地がフランス以外のことが多く、今年のスタート地はオランダでした。今年は7月4日から7月26日までで、全21ステージ。私はケーブルテレビのJsorts4で見ているのですが、ほぼ毎日、夜9時から深夜1時過ぎまで、フランスの田舎道を走るサイクリストの姿がライブ中継されます。

 レースの流れの中で攻防もあるのですが、日の光を浴びて淡々と道を走る場面も多く、合間合間には、通り道にあるお城や教会、牧場、学校などをヘリコプターから撮ったのどかな風景が流れます。出ているサイクリストの数が多いので、レースが動いた時は実況中継を聞かないと誰がどう動いているのかつかめないのですが、中継する方も淡々と走っている時は話すことがなくて困るのでしょう、レースと関係のない話をうるさく感じることが多いので、私は基本的に音声を会場音に設定しています。こうすると、車輪の音、風の音、横を通るバイクや車の音だけになり、それを毎晩、ビールを飲みながらだらだらと眺めていると、こちらも穏やかな気分になります。

 平坦な道を走る場合、レースの前半は動きがないことが多いので、その間にパンを焼いたり、料理の仕込みをしたりもするのですが、今年はそれに人形の服作りが加わりました。型紙を置いて布を裁ち、だらだらと走っているときにちくちくと縫っていると、大きな攻防に入る前くらいには1着縫い上がるのに味を占め、今年は何着か縫い上げました。

 テニスのように「目が離せない」「好きな選手の一本一本のショット喜んだりがっかりしたりする」という大きな興奮がずっと持続するわけではないのですが、レースが動く時はとても興奮しますし、そこに至るまでの努力の過程を淡々と見ているのが好きです。

 考えてみると、淡々と走る自転車を眺めているときも、ちくちくと布を縫っているときも、「見る」と「縫う」に集中していて、他のことを考えていないので、それが心地よいのかもしれません。

 こんなふうに毎日ツール・ド・フランスを楽しんでいると、終わったときにとても寂しい気分になります。しかし、そんなファンの心理に応えて、もう来年の出発地が発表になっています。2016年は7月2日、モン・サン・ミシェルからの出発。暑い夏を乗り切り、1年元気でいて、また来年のツールを楽しみたいと思います。
(えざき りえ)







はまってはまって

江崎リエ(2015.09.07.更新)




読書の変遷

 私は子どもの頃から本を読むのが好きだった。本を読むというよりも美しい言葉、美しい文章が好きで、本の中でそういうところを見つけると、ノートに書き写してコレクションしていた。本がつまらなくても、そうしたコレクションがたまっていけば、それが楽しかった。

 もうすこし大人になると、好みは気難しくなって、本全体が自分の気に入るものでないと読む気がしなくなった。しかし、読んでみないと本全体を気に入るかどうかはわからない。たくさんのがっかりを積み重ねながら、好みの作家を見つけて、その人ばかりを追いかけるような読み方をしていた。しかし、沢山読むとあらが見えたり、読む物がなくなったりするので、またたくさんのがっかりを重ねることになった。こうして見つけた作家たちは私の財産だが、それほど数は多くない。

 それからだいぶ経って、経済的に苦しくて図書館で本を借りるくらいしか楽しみがなかったり、精神的に辛かったりした時期に、テレビを見るようにして本を読んでいたことがある。このときは手当たりしだい、それまでは読まなかったミステリーや時代物も読み、現実を忘れて時間が経てばいい、読んでいる間だけ楽しければいいと思っていた。しかし、これはしばらく続けていると空しくなった。「その時はおもしろいと思っても、一週間経ったら本のあらすじも覚えていない」というようなことが続き、「時間をもっと別のことに使いたい」と考えるようになった。たぶん、そう思えるほど私の気力が回復してきたということだろうと思うが、それからはまた、なかなか気に入った本がみつからないという、昔ながらの読書に戻った。

 そして最近。自分より若い作家が増えたこともあり、読みたいと思って本屋で手に取る本は10年前より減っている。近くの図書館にあるめぼしい本はたいてい読んでしまったので、新味が無くなってあまり図書館にも行かない。ネットで本を買うようになって、本屋を巡って刺激を受ける回数も減っている。こうなると、友人と会った時に勧められた本とか、よほどネットで評判の本(テレビはあまり見ないので)でない限り、自分の好みでなさそうな本を読んでみようかと思うこともない。

 私は紙の本も街の本屋も好きなので、近所の本屋に行って気に入った本を買い、それがとても面白かったというのが理想なのだが、ざっと見渡してもなかなか買いたいと思う本がない。年のせいで、そうそう簡単に面白いと思わなくなっているのか、作家のパワーが落ちているのかわからないが、「読書の秋」なので、今月は街で評判の本をだまされたと思って読んでみようかなと考えている。だまされたままかもしれないが。
(えざき りえ)







はまってはまって

江崎リエ(2015.10.03.更新)


スプリングボック(Wikipediaより)
ラグビーワールドカップ2015

 ずっと自転車ロードレースを見ていたのだが、そのシーズンが終わり、テレビで見たいスポーツがなくなったところで始まったのが、ラグビーワールドカップ2015だ。我が家はテーブルテレビに入っているのだが、たまたまケーブルテレビで見られるJsportsがワールドカップを生中継しているので、最近は毎晩1試合を見るのを楽しみにしている。

 私の出身大学・早稲田はラグビーがそれなりに強かったので、大学ラグビーは学生時代から見ていた。大学ラグビー日本一が決まった後に、成人の日に行われる大学日本一対実業団日本一の試合も毎年見ていた。しかし、ここ10年くらいはラグビーへの感心も失せて、2020東京オリンピックのために国立競技場が壊され、新競技場が話題になる前は、2019年にラグビーワールドカップが日本であることさえ知らなかった。だが、あらためて見てみると、なかなかおもしろい。

 学生時代は野球やサッカーよりもラグビーが好きだった。何が気に入っていたのかというと、第一に、試合中はヘッドコーチ(監督)がフィールドにいないことだった。野球やサッカーの場合は監督がえらそうにしていて、選手達はなんとなく監督の顔色をうかがっている感じが好きではなかった。その点、ラグビーは「試合が始まったら采配は選手に任せる」というところが、大人っぽくていいと思っていた。今回テレビで見ていると、ヘッドコーチは無線でフィールドにいる複数のコーチに指示を出しているので、選手に任せっきりではないことがわかるが、それでも、「スタンドで見る」という姿勢に好感がもてる。

 第二は、審判の裁定に選手が詰め寄るシーンがないことだった。あれだけ体の大きい選手達が審判に文句をいうと収拾がつかなくなるということもあるのだろうが、学生時代はそのクールな感じが好きだった。これはそもそも、「審判の判定に文句を言ってはいけない」というルールがあるらしく、審判は判定について両チームのキャプテンを呼んで説明する。この背景には「ラグビーは紳士のスポーツ」という前提があるそうで、それはそれでスノッブな感じがするけれど。

 第三は、マイクを通して審判の言葉が聞けること。審判は冷静でいるという建前なのか、紳士のスポーツの伝統なのか、日本語でも英語でもそれなりにていねいな言葉で話している印象がある。今回のワールドカップでは、ビデオでの判定を頼み、判定結果を聞く時の審判とビデオ担当者のファーストネームで呼び合うやりとりも聞こえてきて、それもなかなか好感がもてる。

 第四はおまけだが、それぞれのチームの愛称が楽しいし、ハカと呼ばれる戦いの前の踊りも好きだ。チームの愛称はニュージーランドのオールブラックスが有名だが、オーストラリアのワラビーズ(小型カンガルー)、南アフリカのスプリングボクス(レイヨウ)など、選手の姿に似合わず可愛いものもある。日本チームはブレイブ・ブロッサムス、またはチェリー・ブロッサムスと呼ばれている。ハカは、本来はニュージーランドのマオリ族の戦士の踊りだそうだが、ラグビーではオールブラックスが足踏みをして地を鳴らすようなダンスと鬨の声を融合した迫力のあるハカを見せてくれる。トンガ、サモア、フィジーのチームでも、試合前にハカ同様の踊りが見られる。

 今回のワールドカップ日本戦は、「日本が南アフリカに勝つ」というほとんど誰も予想していなかった勝利で始まった。昔からのラグビーファンもにわかラグビーファンにも思いがけない喜びを与えてくれたブレイブ・ブロッサムスの今後を応援したい。  
(えざき りえ)







はまってはまって

江崎リエ(2015.11.07..更新)



ヘップファイブの赤い観覧車
撮った写真が見つからないので
HPの写真を掲載



マルセイユの港にあった観覧車



みらい長崎ココウォークの観覧車
猫は高いところが好き、私は観覧車が好き

 不器用な子供だったので、新しいことをやろうとすると体中に力が入って失敗することが多かった。遊園地に行ってもそう。ジェットコースターに乗ると、怖さで体がガチガチになって全然楽しめない。少し高いところから船が池の中に入って、ザブーンと水を浴びるのを楽しむアトラクションがあったのだが、私は船が落ちたはずみに唇を強く噛んで血だらけになった。コーヒーカップがぐるぐる回るアトラクションでも、体を揺れに任せることができずに、船酔いのように気持ちが悪くなった。そんなわけで、遠足で遊園地に行くのは、私にとっては全然楽しいことではなかった。そんな中で、観覧車だけは楽しくない遊園地の救いとなる乗り物だった。小さなゴンドラに乗り込めば、リラックスして、高いところに上がるという高揚感と目の前に広がる景色を楽しむことができる。

 子供の頃に観覧車に乗ったのが、豊島園だったか後楽園だったか、または別のところだったのか、全く覚えていない。しかし、「観覧車は楽しい」という刷り込みはされているようで、今でも観覧車を見ると「乗りたい」と思う。いい大人になって一人で乗ったのは10年近く前、大阪・梅田の商業施設ヘップファイブの赤い観覧車だった。出張の帰りで、お客がほとんどいない昼下がりだったけれど、とても気分がよかった。その次は2年前の南仏旅行中にマルセイユの港で見つけた観覧車。この時もお客さんは少なかったけれど、夕暮れ時の港が一望でき、旅の気分にぴったりで楽しかった。そして、今回は長崎出張のついでに「みらい長崎ココウォーク」という浦上駅前の商業ビルの上階にあるオレンジ色の観覧車に乗ってきた。金曜日の午後1時。お客さんは少なく、観覧車に乗るのは私一人。係のおじさんにていねいに送り出され、ゴンドラに乗ってゆっくりと上昇する。前方は平和公園の方向で、びっしりと並ぶビルが見えた。原爆投下後の焼け野原を思い、今の賑わいを思うと、改めて平和の大切さを痛感した。

 猫は高いところが好きというが、私は観覧車が好きだ。猫同様、勝手気ままなふりをしながら、あちこちの観覧車に乗ってみたいと思う。  
(えざき りえ)







はまってはまって

江崎リエ(2015.12.01..更新)



入り口のイチョウ並木、
樹齢100年を超えるそう



赤がきれい



この辺りが一番赤くなっている
紅葉狩りという言葉に惹かれる

池の横の東屋から見える紅葉

 紅葉の季節になりました。きれいな色が好きなので、秋になるといろいろな葉がいろいろな色に変化するのに惹かれます。それと同時に、「紅葉狩り」という言葉をつぶやいてみたくなります。子供の頃にこの言葉を教わったのは、謡曲を習っていた祖母からでした。家でさらっていた謡に「紅葉狩」というのがあり、多分それを謡いながら説明してくれたのだと思います。その時から、何か特別な響きがあり、秋になると「紅葉狩りに行きたい」と思ってあちこちに出かけています。

 今年は11月23日から25日まで、京都に紅葉狩りに行ってきました。その話は私のホームページに書こうと思うので、今回は都内の紅葉巡りその1の話です。
他の木は色づき始め

 阿佐ヶ谷駅からの散歩のついでに、日本庭園の「大田黒公園」まで行ってきました。パンフレットによると、ここは音楽家の太田黒元雄さんの屋敷跡を整備したものだそうです。入り口は黄色のイチョウ並木。奥には水の流れと池、東屋があり、ケヤキ、松、カエデの木が茂っています。特にカエデの木は本数が多く、色々な種類があります。色づきにはまだ早く、赤くなっているのは池の近くにある数本。他は緑だったり、黄色だったりですが、その色の重なりがなかなかきれいでした。秋の葉の染まりぐあいは、春の桜よりも時の流れがゆっくり感じられて、じっと眺めていても落ち着きます。ここは入場無料、普段は夕方までですが12月6日まではライトアップをしているので、夜も入れます。機会があったら訪ねてみてください。

ライトアップ情報
(えざき りえ)