![]() Swan Song 2002.1
あけましておめでとうございます。みなさんにとって、今年がいい年になりますように。 東京近郊の冬は本当に暖かくなった。雪もめったに降らない。ひと冬に一度降るかどうかというところ。昨年12月も雪の予報がでたけれど、一度はみぞれ程度でおわり、もう一度はからぶりにおわった。 わたしが子供ころはよく雪が降った。子供の足が膝下くらいまで埋まるほど深く積った。それもひと冬に一度や二度ではなかったと思う。晴れた日でも、朝はかならず庭の水場のバケツには氷が張っていたし、しめった土には霜柱が立った。それをジャリジャリとつぶしながら登校したものだ。一昨年前の冬にソウルへ旅行したとき、その寒さにふるえあがり、外をぶらついいていても陽のあたっている場所を選んで歩いた。でも、むかしは東京・横浜もそれに近い寒さだったのではないだろうか。それがいまでは、雪の多い地方の人たちが村おこしで雪だるまのかたちをした発泡スチロールの型に雪を詰めたものを注文している。 雪の積った日は校庭で雪合戦をしたし、雪だるまもつくったっけ。もちろん下校時は遊びながら。坂の多い通学路で何度も尻もちをついたり、傘をつぼめて空に向かって口を開け、降りこんでくる雪を味わったりもした。家に着くころには、手袋も靴下もぐっしょり濡れて、かじかんだ手足をストーブで温めた。下手をすると三月になっても降ることがあり、わたしの記憶では4月の初旬に、朝起きてみたら雪が積っていたことがある。 「春の雪」。単純な言葉ながら、かみしめると深くて美しい言葉だと思う。これは三島由紀夫の『豊饒の海』の第一巻の題名になっている。英訳では『Spring Snow』。むかし、これを味気ないといった友人がいたけれど、英語にだってそれなりの語感があるのではないだろうか。味気ないといった人は、春巻きをSpring Rollというのとごっちゃにしていたのではないかと私は疑っている。 昨年12月に従兄がまだ53歳の若さで癌のために他界した。彼はこの『豊饒の海』の初版の箱入りハードカバーをもっていて、わたしが文庫でしかもっていないというと自慢していた。全4巻のうち、「春の雪」がいちばん好きだといったわたしに、従兄はベッドのうえで同意してくれた。従兄が亡くなった翌朝、お通夜の準備に必要なものを父とふたりで彼の家にとりにいった。誰もいないその家で、わたしはまず最初に彼の部屋に入り、『豊饒の海』のハードカバー4巻をこっそりもらってきた。古くなって少し変色しかけたそれが、いまここに並んでいる。「春の雪」。今年は降らないだろうか。 |
![]() Swan Song 2002.2 今年も2月になっていまさら前年をふりかえるのも遅いけれど、2001年に観た1等賞映画はなんだろうと考えてみた。けれど、これという1本がなかなかない。『リトル・ダンサー』も『トラフィック』もよかったけれど、これを1等賞というのはなんだか癪だ。『楽園をください』『ギター弾きの恋』『ブロウ』『メメント』も人にお勧めしたい秀作だったけれど、輝く1等賞というにはもう一歩。 当然ながら、映画館に足を運んでその年の封切映画を観るにはかぎりがあって、去年は20本。そのほかは全部レンタルだ。上映期間中に行かれなかったとか、1500円払うほどでもないと思うものとか、過去に観たものをまた観直すとか。定期的に観たくなるものあり(『レザボア・ドッグス』)、前に観てよかったからまた観たらやっぱりいいと思ったものあり(『ハイロー・カントリー』)。あらためて観たら前よりもずっといい印象をもったのが『スターリングラード』だった。でも、去年のリストを見てみると(ちゃんと記録してるのよ)、前にも借りて観たのにまたレンタルで何度も観直してしまった1本がある。7泊8日で借りて毎晩のように観た。さらに中古ビデオで買ってまた観た。『マグノリア』だった。いまさらだけれど、2001年はこれを1等賞にしよう。 この映画は群像劇で、それぞれ心に傷をもつ人がいろいろなところで交錯しつつどこかでつながっている。観た方も多いと思うので内容は割愛するが、サントラも買ってしまった。ほとんどはエイミー・マンという女性シンガーの曲。どの曲も好きだけれど、「Wise Up」という曲は、映画の最後に登場人物たちがそのときのそれぞれの状況でワンフレーズずつ歌う。It's not going to stop を何度も繰り返す。字幕では「それはもうとまらない」……。調子にのって、あえてここで訳してみちゃおう。 □Wise Up□ It's not・What you thought・When you first began it. You got・What you want・Now you can hardly stand it, though. By now you know・It's not going to stop・It's not going to stop. It's not going to stop・'Til you wise up. You're sure・There's a cure・And you have finally found it. You think・One drink・Will shrink you 'til you're underground. And living down・But it's not going to stop・It's not going to stop. It's not going to stop・'Til you wise up. Prepare a list of what you need・Before you sign away the deed. 'Cause it's not going to stop・It's not going to stop. No, it's not going to stop・'til you wise up. No, it's not going to stop・'til you wise up・No it's not going to stop. So just give up これは最初に望んでいたとおりのものじゃない。 あんなにほしかったのに、手に入ったいまはなんだか違うと思う。 だからわかったでしょう。きりがないのよ。いつまでもきりがない。 もっと賢くなるまでは。 きっと慰めがあると思っているのね。やっとそれを見つけたと思っているのでしょう。 一杯の酒。それで忘れられる。これでいいやと思えるし、ごまかしもできる。 でも、それでは終わらない。いつまでもつづく。 きりがないのよ、あなたが愚かなままでは。 ほしいものをずらりと並べてみては、よく考えもせずに消したり書いたり。 だってほしいものにはきりがないから。きりがないから。 そう、いつまでも終わらない。はてしない。 いつまでたってもきりがない。もっと賢くならないかぎり。 だから、もうやめて。(桃井緑美子)2002,02 |
![]() Swan Song 2002.4 先月お休みしてしまってので、これは2月のお話。 マーティンが日本にやってきた。と言っても、彼はロック・ミュージシャンでも俳優でもなくて、たんなるわたしの友人。ひょんなことで知り合ったグラスゴーに住むスコットランド人。もうかなり前のこと、『ローカル・ヒーロー』という映画を友人と見にいき、2人ともすっかり気に入ってしまった。アメリカの石油会社がスコットランドの北部沿岸の油田を買収しようとして、その会社の社員が現地に赴き、なかなかしたたかな現地の住人と交流するうちに……という話。ほのぼのとしていて、そこここにユーモアがあって、なんだかのんびりした雰囲気と美しい風景にスコットランドへ行ってみたくなり、話がまとまって2週間ほどかけてレンタカーでまわってきた。なだらかな緑の丘が連なる風景は映画のとおりだった。そこにポチポチと白い点が見えるのも(これ、羊)……。そのときにお世話になった年配のご夫妻が不在の息子のかわりに、息子の友人を呼びつけてわたしたちの相手をさせた。それがマーティン。 その後、なぜかマーティンと友人はおつきあいをするようになって、長距離&長期間恋愛(もうそんな雰囲気じゃないかも)がつづいているので、2人は年に数回会っている。今回わたしが彼に会ったのは2年ぶり。日本に到着するその日、祝日だというのに友人は出勤せざるをえず、かわってわたしが新宿までお迎えに行き、彼女の仕事が終わって横浜でまちあわせる夕方までわたしの部屋でひと休みさせた。まずはシャワーをどうぞと言ったけれど、いいよいいよと遠慮する。それじゃあということで、昼間っからビールを飲みながらおしゃべりした。どうしてイギリスはユーロを使わないのとたずねると、ぼくはブリティシュ、という返事から始まってとまらなくなる。要するに、各国で経済力も通 貨の価値も違うから損だということ。それはわかるんだけどね。ブリティッシュは頑固でひとひねりある。それでいてマーティンはどこか飄々としていて、話をしているとホントなんだか冗談なんだかわからないときがある(こちらの英語力のせいでもあるけれど)。話は移って、いまさらだけどどうしてちよこ(友人)と結婚しないのとつっこむと、なにやら説明していたけれど、やっぱりシャワーを浴びようかなと言いだした。そろそろでかける時間なので早くしなさいと言って彼をお風呂にいれ、その間にお皿を洗いながら、あ、これもジョークだったかと気づいた。まあ、いいか。 2人で横浜に向かう道々、ちよことアイルランドに行きたいと話しているんだと言うと、アイリッシュについて、さらにイングリッシュについて長い話になる。さすがスコティッシュ、ブリティッシュでひとひねりのうえにさらもうひとひねりある。でも、個人としてはとっても思いやりのあるやさしい人だ。 チャールズ・マッキントッシュの作品集とか(なにしろ地元)、重いのにその他いろいろお土産を抱えてきてくれた(だからいい人ってわけじゃないけれど)。 1週間の滞在のあいだ、マーティンはちよこと沖縄に行った。帰国前日にもう一度一緒に食事をした。沖縄については戦争のときに特別 なことがあったらしい、くらいのことしか知らなかったようだけれど、戦跡などには英語のパンフレットもあっていろいろ感じるところがあったという。それに車好きの彼は日本でドライブができてご機嫌だったようだ。本島をぐるりとまわって楽しんできた。でも、ミミガーとかテビチの正体をちよこが明かすと食べられなかったとのこと。きけばスコティッシュなのにスコットランド料理で有名なハギスも食べられないという。 帰国後のメールで、ちよことわたしがアイルランドに行くならぜひ自分も一緒に行きたいと言ってきた。アイリッシュについて長々とぶっていたくせに。あれも二重ひねりだったんだろうか。でも、おかげで前々から話していたアイルランド旅行がにわかに現実味をおびてきた。ついでにグラスゴーにも寄ってマッキントッシュが設計から内装まで手がけたヒルハウスが見られるかな。なんだかうれしくなってきた。 |
![]() Swan Song 2002.5 ひさしぶりに子猫の横跳びを見て感動した。4つの足で立ってトットットと文字どおり横に跳ぶ。子猫ならではの動作だ。自分の体重の負荷がかからないからこその身軽さ。わきに手を入れて抱きあげると、トリのから揚げみたいな細い骨が手にさわって、その華奢さかげんがなんともいえず子猫らしい。ある意味で、東欧とかロシアの新体操の少女に似ている。細くてぎこちないものの、全身これバネといった体つき。そして身の軽さ。美しさには欠けるが、なに、猫もオトナになるとさすがに横跳びはできなくなるかわりに、ダンスに優雅さがくわわる。 ひさしぶりにさわらせ放題させてくれたこの子猫は友人が一週間前にもらった子で、猫なし生活にさびしい思いをしているわたしのためにつれて遊びにきてくれた。名前はパール。金、銀、パールのパール。血筋はたしかでないが、いわれてみればアメリカン・ショートヘアのようにも見える。事前に女の子をもらうつもりと聞いていたからすっかりそのつもりでいたら、男の子だった。そうと聞けば、どれどれと確かめずにはいられない。これね、これ、といってちょっと指でつまんでみたら、キャッといった。あー、かわいくてたまらない。部屋に入ってから5分くらいはおそるおそる足を踏みだすといった風情だったが、まもなくハンターの探検が始まる。せまい部屋のかってがわかってしまえば、こっちのものとばかりに走りだす。かなりの怖いもの知らずのようだ。 猫は被毛の柄によってある程度まで性格が占えるとわたしはつねづね考えているが、某書によると目の色で気質が決まるという説があるらしい。メラニンの沈着をたすけるある種のホルモンが多いと、猫の目は茶色になる。そのホルモンが大脳の辺縁系に作用した場合、痛みを緩和し、心理的な負担を軽くするはたらきがある。だから茶色の目の猫は大胆な性格になる。反対に、このホルモンの放出量 が少ないと目は青くなり、ブルーの目の猫は引っこみ思案なのだそうだ。フンフン、なるほどね。目の青い子は被毛が白っぽく、目の色の濃い子は毛皮も濃い色になるから(人間と同じね)、わたしの被毛による猫の性格占いもまんざら科学的根拠がないわけではなさそうだ。濃い色のしま柄は向こう見ず、白黒は明るくて好奇心が強く、白かブチでも白地が多いのはおとなしめ。頭がよくて冷静なのは黒。これは色から連想される決めつけではなく、観察にもとづいた結果 だ。 もう十数年も前になってしまうが(ああ、なんてこと!)、ぴょんぴょん跳ねる子猫がが4つも5つもうちにいたことがあった。父親と母親はわかっていて(たぶん)、子猫の柄の配分はまったくメンデルの法則にのっとっていた。そのことは半年もたたないうちにまた(!)生まれた子猫でも確かめられた。そして柄による性格の傾向も。ああ、それにしてもあんなにたのしい生活はめったにあるものじゃない。早く猫のいる生活がしたい。自分が猫になれたらもっといいけれど。 |
![]() Swan Song 2002.6 あっという間に今年も6月。ワールド・カップがはじまりました。このサイトでも、今月は実川さんのほかにも誰かW杯のことを書いているでしょうか。スポーツ音痴のわたし(運動の音痴だから「運痴」というって常識? そしてすでに死語? いずれにしても「運痴のわたし」は音読不可です)は、ワールド・カップか、どうせ見られないよ、ってくらいしか思っていなかったのですが、ここへきて(ってもう今日が開幕だ)俄然その気になってきました。きっかけは「W杯くらい見ないようでは、いまここに生きる人間として何か欠けている」(大げさ)と思ったこと、スコットランドの友人から「スコットランドは出場しないが、かわりにフーリガンで悪名高いイングランドを応援してくれ」といわれて、「はいよ」とあっさり答えてしまったこと。ベッカムしか知らないくせに。でも、やはりひいきチームを決めると気分が盛りあがってきます。いまさらですが、6月7日は札幌に行きたくなりました。 |
![]() Swan Song 2002.7 引越しました。今度の町はいろいろな意味でやたらと便利で、いちいち感心しています。開拓があらかた終わるまでにはまだまだかかりそうです。しかし、振り返ってみると、これまで住んでいた町も、ひたすら駅周辺の商店街を徘徊するのみでしたが、すてがたい味がありました。 2駅利用できて、図書館は徒歩1分。スーパーは高級志向から庶民の味方までグレードの違う店がそろっていたので、目的に合わせて使い分けできました。そのほか安さを追求した八百屋・肉屋あり(ちなみに肉屋は「ユニーク」というふざけた名です)、100円ショップは亡き長崎屋のあとに店舗を拡大、レンタルビデオは曜日によって激安の200円! ニシキヤという渋い名の巨匠のケーキ屋さん、町の規模からしてりっぱすぎるけれど、かわいい小物も扱っている家具屋さんのトレジャーハウス、シックな花束をつくってくれる花屋さんも好きでした。しかし、なんといっても離れがたかったのはカルディ・コーヒーファーム。コーヒー豆と輸入食品の店です。写真を撮ってご紹介したいところですが、あやしい人と思われるのでやめました。 そこでインターネットで探してみると、ありました、ホームページ。
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