![]() 日々の泡 2002.02 英語の文章にとっきどき出てくる単語です。いわゆる「八方ふさがり状態」のことですね。 語源は1961年に発表されたジョゼフ・ヘラーの同名小説『キャッチ=22』。わたしは翻訳をするようになる前にこの小説を読んでいたけれど(もちろん邦訳、ハヤカワ文庫で)、タイトルが一般名詞化しているとは知らなかった。流行語が生き残った稀有な例、ということでしょうか。こんな例って、ほかにもあるのかな? で、その「キャッチ=22」とはそもそも何なのか。 この小説の舞台、第二次世界大戦時のイタリアの小島で、駐留する米軍爆撃機部隊のみなさんを八方ふさがり状態にさせている、実際にはどこにも存在しない軍規のことです。そこに、こういう規定がある。「現実的にしてかつ目前の危険を知った上で自己の安全をはかるのは合理的な精神の働きである」 爆撃手のヨッサリアンは、危険な出撃任務に出るのを回避しようと、自分は気が狂っているから飛行勤務を免除してくれと軍医に頼みに行く。すると軍医は、そういうことを頼むのは正気である証拠だから飛行勤務は免除できない、と答える。それじゃあ出撃に参加しているやつは正気なのか、というと、危険な出撃にあえて参加するのは狂気の証拠だという。狂気の人間は出撃に参加する必要はない。免除願いを出しさえすればいい。ところが願い出たとたんに、その人間はもはや狂人ではなくなるから、また出撃に参加しなくてはならない。そして出撃するようなら、やっぱり気が狂っている証拠であるが、本人が願い出ないかぎり任務は免除してやれず、願い出ればやっぱり正気というわけで……という美しいまでの論理の堂々めぐりが、「キャッチ(落とし穴)=22」なのです。まさに不条理。ノー・ウェイアウト。管理システムって、すごい。 この例からもわかるように、この小説は凄惨で、哲学的で、感動的でありながら、しかも笑えるのです。 ヨッサリアンが合理的な精神の働きで任務を回避しようとした爆笑例をもうひとつ。 彼が仮病を使って入院すると、同室にいた患者が「あらゆるものが二度ずつ見える!」と叫んだ。すぐに各科の専門医が飛んできてどういう病気なのか調べるが、だれもわからず、「あらゆるものを二度ずつ見た軍人」は隔離されてしまう。 ヨッサリアンがこれにならって「あらゆるものが二度ずつ見える!」と叫ぶと、やはり軍医が束になってやってきた。なかの一人が指を一本立ててヨッサリアンに聞く。「何本の指が見えるかね」 「二本」 「じゃあ今度は」と二本の指を立てて軍医。「二本」「じゃ今度は」と指を一本も立てずに軍医。 「二本」 「たしかにあらゆるものを二度ずつ見ている」 ヨッサリアンも隔離され、これで快適な入院生活を送れると思ったら、その晩のうちに「あらゆるものを二度ずつ見た軍人」が死んでしまった。ヨッサリアンはあわてて叫んだ。「あらゆるものが一度ずつ見える!」 また一団の専門医がやってきて、なかの一人が指を一本立てて聞く。「何本の指が見えるかね」「一本」「じゃあ今度は」と二本の指を立てて軍医。 「一本」 「じゃ今度は」と十本の指を立てて軍医。 「一本」 「この男はあらゆるものを一度しか見ていない!」と軍医は驚いて言った。「ずいぶん治療効果が上がっているぞ」 え、おもしろくない。そーですか。説明が悪いのかな。でもね、読むとおもしろいんですよ、ほんとに。 |
![]() 日々の泡 2002.03 ソルトレーク観戦記 ふだんウィンタースポーツなんてとくに見ないのに、五輪となるとつい見てしまう。今回は時差が大きくてきつかったっす。残念ながら日本勢はほとんどメダルに届かなかったですね。まあワールドカップなどの成績を見ていると予想されたことですが、某スポーツ紙に、どうせなら「ムネオ・トレーニングハウス」作ってくれればよかったのに、と書いてあったのには笑ってしまいました。 ![]() 競技ももちろん楽しかったんだけど、なんといっても興味深かったのは、男子の眉毛手入れ率の高さです。みんな、すごくきれいに形を整えてるんだなあ。スピードスケートの清水くんもごらんのとおり。もはや求道者のような風格をたたえている彼が、毎朝、鏡の前で抜いたり剃ったりしているのかと思うと、なんだか微笑ましくなりませんか。 ジャンプの船木くんの細眉は長野のときも話題になりましたが、キミのはもう少し眉山を高くして角度をつけるといいと思います。 ![]() 選手は日本を代表して行っているのに、茶髪にカラーコンタクトとはいかがなものか、日本人であることが恥ずかしいのか、という投書が新聞に載っていました。元JOC会長の古橋広之進さんも、選手とスタッフに茶髪が多すぎると苦言を呈されたそうです。なるほどね。わたしはこの意見には賛成しないけど、こういう人がこういうことを言うのには賛成します。功成り名遂げたご年配者があんまり物分かりよすぎても、かえって気持ち悪いです。反抗精神の意味もなくなっちゃう。わたしも年寄りになったら頑固一徹をめざそう。 |
![]() 日々の泡 2002.04
新聞の小さな記事に、今年の全米批評家協会賞のノンフィクション部門をニコルソン・ベイカーが受賞したと出ていた。
そのベイカーがどんなノンフィクションを書いたのかというと、「挑戦的なまでに激烈な」図書館批判の本である。タイトルは『 Double Fold 』(二回折り)といい、図書館が本を廃棄すべきかどうか判断するためにページの隅を何回か折って強度をテストするという、その慣例のことであるらしい。ベイカーに言わせれば、これは本への虐待であり、紙はもろいものでいつかはボロボロに崩れるというのもマイクロフィルム・メーカーのばらまいた嘘っぱちであるという。そんなデマにだまされてマイクロフィルムなんかに保存し、本を廃棄するなんて何たる倒錯か、というわけだ。 去年刊行されて、その過激な批判でたいへんな反響を呼んでいたという。全然知らなかった。かつて図書館サービス会社にいた私としては、大いに興味があります。読みたいな。 やっぱり本というのはテキストだけでなく、オブジェクトとしての魅力もあるわけで、将来いくら電子本が発達しても、紙の本はなくならないでほしいと思うし、きっとなくならないと思う。中身の情報だけで事足りる場合もあるけれど、活字や装丁や、すべてが合わさって、その「本」になっていることもある。だから、本が捨てられないのだ。 ニコルソン・ベイカーは、前世紀と前々世紀の古新聞の図書館を自費で運営してい るそうである。 |
![]() 日々の泡 2002.05
払いすぎていた所得税が戻ってきたので設備投資をしよう。 この春、わたしのデジタルライフは進化します。 まずはコンピュータ。 4年ぶりに買い換えました。VAIOくん、さようなら。長らくお世話になりました。今度はDELLのDIMENSION、愛想はないけど力はあるよって感じでしょうか。なにしろスペックが違います。いままでCPU200MHz、メインメモリ32MBでよくやってたよなあ。さくさく動く画面は、どこかの製品名じゃないけど驚速です。しかしキーボードが変わったので、困惑しきり。デリート・キーとバックスペース・キーの位 置がまだつかめなくて、消したくない文字がすぐに消えてしまいます。この短い文章を打つのに何度やり直したことでしょう。 このパソコンはネット通販で買いました。こんな値の張る大事なものを家にいながらにして購入するなんて初めての体験です。最初は不思議な感じでしたが、やってみると便利ですね。デルは仕様が細かく指定できて、いらないものはつけなければいいだけだから、安上がりでたいへんけっこうです。でも購入時に控えめなスペックで申し込むと、「○○の性能があと△△△円でアップします! 長く使うのなら最初から高性能にしておくと便利です!」と出てくるところは、商売上手でございます。その気にさせられ、いくつかの部品をグレードアップしてしまった。親切といえば親切か。 それからデジタルカメラ。昨年末、確固たる使用目的もないまま中田のCMにつられてキャノン・イクシーを買ったのでした。もう五月になろうというのに、いっこうに使い方を把握していなかったけれども、この快速パソコンでばりばり使いこなせるようになるかしら。 そして、これからですけどADSL。とりあえず申し込みだけはしました。また各種機器の接続に悩みそう。こういうことをやっていると、一日があっというまに経ってしまうのですよね。でも楽しみ。これで電話代を気にせず調べものやソフトのダウンロードができるんだわ。ウェブレディオとかも聴けるんだわ。「人生変わった、とまでは言わないけど、生活はちょっぴり変わった」という友の声もあり、期待は増大です。ああ、開通する日が待ち遠しい。 |
![]() 日々の泡 2002.06
シンガポールに住む友だちを訪ねて一週間ほど一人旅してきました。 クリーン&ヘルシー みなさん知っていましたか。シンガポールは酒とタバコの持ちこみに課税することを。タバコなんて一本から課税されるんですよ。だから知らずに免税店のビニール袋から酒やタバコの箱をのぞかせていたりしたら、あら大変。安く買ったつもりが、とんでもない出費になってしまいます。麻薬なんて持ちこもうものなら死刑です(ほんとに。入国注意にそう書いてある)。といっても、シンガポールの税関はあってなきが如し。出口前にいちおう係員が立っているけれど、よっぽど怪しい姿でもしていなければ、めったに荷物をチェックされることはありません。こういうところが南国のお国柄なのかな〜。だからといって鞄の底にこっそりタバコ2箱しのばせる、なんてことはしちゃいけないんですよ。 実際、シンガポールは国策としてかなり強力にクリーン&ヘルシーを推進しているらしく、ごみのポイ捨て禁止は有名な話だし、酒場以外の屋内は全面 禁煙。酒やタバコは健康に悪いという宣伝が行き届いていて、しかも全体の物価に比較して高いので、たしなむ国民は少ないといいます。たしかに飲食店の野外席でビール飲んだりタバコ吸ったりしているのは圧倒的に西洋人。まあ、もともと西洋人は外が好きだから余計に目立つのでしょう。あんな蒸し暑い戸外によくいられるよなあ、と思うぐらい、楽しそうに外にいますね。 ホテル・ジャンキー
シーズンオフで人が少なかったせいもあり、静かで落ち着いていました。部屋は茶系の木目調、スリッパとバスローブが備えてあり、バスタブとシャワーブースが別になっています。朝食はプールサイドの戸外レストラン。目の前は海。ただし見えるのはタンカーばかりで、ちょっと興をそがれるのが残念ですが、これはホテルのせいではない。 ホーカー シンガポールの何が嬉しいって、安くてうまい食事です。さすがに多民族国家、中華からインド、マレーにインドネシアと、アジア各地の料理が豊富に揃っています。それを一度に試せるありがたい場所がホーカーです。要するに、日本でもひところ流行った屋台村ですね。これがショッピングセンターの中に必ず入っています。ご飯ものや麺や惣菜がそれぞれワンプレートになっていて、だいたい一皿300円から500円。シンガポール人は外食があたりまえなので、どのホーカーもいつも満員です。家族連れもいれば、OLらしきお姉さんが仕事帰りに一人で食べている様子もよく見られます。 代表的なメニューはチキンライス。鶏肉の入ったケチャップご飯じゃありませんよ。鶏がらスープで炊いたご飯に、ローストあるいはボイルした鶏肉をのせ、瓜を添えてパクチーを散らした一品です。副菜として炒めカイラン(チンゲン菜のような野菜、初めて見た)でも頼めば、もうお腹いっぱい。 日本でこういうものを食べるとえてしてまずいのですが、シンガポールではまずいものに当たりませんでした。なにしろ飲食店の競争が熾烈なので、まずい店は客が入らず、すぐに淘汰されてしまうからです。このへん、沖縄と似ているかもしれませんね。 マーライオン
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