牧人舎【日々の泡】塩原通緒2007
【日々の泡】バックナンバー 2008年  塩原通緒(しおばら みちお)   2007年2006年2005年2004年2003年2002年2001年2000年はこちら






日々の泡

塩原通緒(2008.1.7更新)



謹賀新年

あけましておめでとうございます。
元旦から晴れの日が続いて気持ちよいですね。
城北の住宅街はとても静かです。

年越しは、いつもと同じく近所のお蕎麦屋さんに行って、
紅白を見るともなく見て、
そのままテレビのカウントダウンを聞いて、
裏の神社にお参りに行って、
お賽銭をあげてお札をいただいて御神酒をいただいて甘酒をいただいて、
寝たのは二時ごろでしたかね。

元日からは、いつもと同じく双方の実家に年始のご挨拶に行って、
お子たちにお年玉をあげて、
それぞれの家の流儀にあわせて語らって、
たらふく食べて帰ってきました。

新年の抱負ですが、
今年はもう少したくさん本を読みたいな、と。
ネット中毒に片足突っ込んでますから、少しPCの前を離れて紙の本を。
日本の古めの小説が読みたいですね。
翻訳をしていて痛切に感じるのが自分の語彙の少なさ……。
とくに形容詞……。
思えば、昔から小説の情景描写などはじっくり味わいもせず、
平気で読み流していましたねぇ。
もっといろいろな言葉を蓄えて、自在に使えるようになりたいです。

それでは、今年もよろしくお願いいたします。

(しおばら みちお)





日々の泡

塩原通緒(2008.3.3更新)


男の資産

 久しぶりに風邪を引いてしまいました。春めいた気候に油断してはならなかった。みなさまも春風邪にご注意を。

 さて、先月は再結成ポリスのライブに行ってきました。新作なしの完全同窓会と割り切った潔い過去ヒットパレード。楽しかったよお。ビール片手に全曲いっしょに歌わせていただきました。いよーいよーいえーよー。

 二十数年前、ポリスは私にとってかなり衝撃的なバンドでした。たった三人のシンプルな構成、レゲエを取り込んだ曲の新鮮さもさることながら、ボーカルのスティングは私が初めて見た「運動神経のよさそうな黒人以外のロックミュージシャン」だったからです。ミック・ジャガーのステージングはすばらしいけど、ミックがサッカーうまそうにはあんまり見えない……(そうでもないですか?)……が、スティングなら球技はもちろん、鉄棒や跳馬でも高得点を出してくれそうだった。今でこそ知的キャラで通っているかもしれないが、当時はただの悪童キャラだったから、彼が元学校教師だったという話を聞いたとき、私は絶対に体育の先生だと思ったものでした(実際には国語の先生でしたが)。プロモーションビデオで適当に体を揺らしてるだけでもやけにかっこいいし、タンクトップが文句なく似合うし、こんなロックミュージシャンって、じつはいまでもそんなにいないんじゃないでしょか。老いてもその運動神経(がいかにもよさそうに見える立ち姿)は健在でしたよお。

 運動神経といえば、先日、仕事上の必要から読んだ『追われる男』という英国小説の主人公がまたすごい人でした。厳密に言えば運動神経というよりサバイバル能力全般がスーパーなんですが。この小説、まったく知らなかったけど、えらく面白かったです。

――要人暗殺未遂のかどで逮捕され、過酷な拷問を受けたわたしは、九死に一生を得て、からくも帰国する。だが執拗の追及の手は故国イギリスにまで及び、イングランド南部の丘陵へと逃亡する羽目となったわたしは、徐々に逃れることのできない窮地へと追い込まれていく……!!(創元推理文庫『追われる男』カバーより)

 とあるイギリス貴族の一人称手記のかたちになっておりまして、舞台設定と年代から、その暗殺されそうになった要人とはヒトラーに違いないのですが、べつにこの主人公は誰かの命を受けた暗殺者でもなんでもなく、自称「不可能なる獲物に近づく誘惑に効しきれなかった一介のスポーツマン」だそうで、政治的目的とはいっさい関わりなく山荘のテラスにいるヒトラーに550ヤード手前から銃を向けてしまったためにナチスらしき組織からしつこく追われ続けることになり、知力・体力の限りを尽くして逃げまわる、という話です。主人公は文武両面の高い教育を受けていて、働く必要ないからずっと冒険家をやっていたらしく、狩猟の腕は一級、外国語はネイティブ並み、身体的苦痛にも超然と耐え、機転は利くし、野宿なんてお茶の子さいさい、野山を這い進むときの危機察知能力は獣も顔負け……とまあ、どう見ても普通の人ではないのですが、その理屈っぽさも含め、なんとなくイギリスにはこういう貴族がいそうな気がするから恐ろしい。

 つくづく、運動能力やサバイバル能力は男の大事な資産であろうと思います。野に放ったらたちまち死んじゃいそうな繊細な男にも、それはそれでまた別の魅力がありましょうが、そういうタイプが世の中を生きていくのはたいへんだろうな、と。たとえそこが荒野や孤島でなくても。
(しおばら みちお)





日々の泡

塩原通緒(2008.4.3更新)



城北公園や石神井川沿いの桜が満開。
春の陽気に誘われて、どこかへ出かけたくなりました。
ここ数年、用事で行った京都をのぞいて、旅行らしい旅行もしてないし。
外国にいたっては七年前のシンガポールが最後だし。パスポートまだ残ってるのかしらん。
まだ行ったことのない四国に行ってみようか。
知人が赴任している仙台の青葉を見にいこうか。
これから知人が赴任するという台湾はどうかしら。
……などと考えていると、いままで無視していた新聞の旅行広告がやたらと目に留まるようになるもので。

仕事の合間に旅行代理店のサイトなどをぱらぱらと巡ってみたりもし。
そして、知らない単語にぶちあたって驚いた。
航空券チケットやツアーの料金とは別に徴収されるらしい、
「燃油サーチャージ」って、なに?
説明を読んで、原油価格の高騰にともなって企業努力ではまかないきれなくなった燃油価格の一部を乗客が負担することになったというのを初めて知った。
うーむ、そういう時代になっていたのか。
石油が高くなったっつっても、
車を使わないからガソリン代の値上げとかも全然身にしみてなかったし、
もう2−3年前からのシステムらしいけど、ちっとも知らなかったわ。
そういや地元のクリーニング屋も最近ついに値上げをしたしな。
石油か……まあ深く立ち入るのはやめておこう。

旅行は、楽しい。
旅行の準備は、それと同じぐらい、楽しい。
ガイドを見て、地図を頭に入れて、見どころを絞って、移動経路を考えて、所要時間を計算し、交通機関の時刻表に当てはめて、泊まるところを選んで、なーんて作業はちっともめんどくさくないから不思議。
ふと思い立った日に計画もなく旅に出る、というスタンスにはまだまだ到達できませんね。
本格的に春が来て実際に休みができるまで、仮想旅行を楽しもう、と思った花冷えの日。

(しおばら みちお)







日々の泡

塩原通緒(2008.6.5更新)






坊ちゃん列車




道後温泉の足湯




翻刻『坊ちゃん』
四国に行ってきました。

 東京と大阪を結ぶ寝台急行「銀河」の廃止が決まり、それまでスッカスカだった列車に突如たくさんの人が詰めかけたとニュースになったのが今年の三月でしたが、どうやら昨今、航空運賃の値下げと安い高速バスの増加によって、寝台列車はつぎつぎとその役割を終えている様子。新幹線から食堂車が消えてしまったのが非常にさみしかった私としては、去りゆくものを記憶にとどめておきたいとの思いから、今回は寝台特急「サンライズ瀬戸」で四国に渡ることにいたしました。

 かつて乗った寝台車といえば、車両に二段か三段の寝棚がずらっと並んでるものでしたが、なんとサンライズはオールモスト個室。各部屋はテンキーロックつきで、これなら女一人でも安心ですね。広さと設備に応じてグレードが数段階ございます。貧乏旅行の昔を懐かしみたいのなら、寝台券の要らないフラット座席か、寝台以外にほとんどスペースがなくて立つのもままならないような最安値個室にすべきなのでしょうが、それはそれ、こんな快適そうな寝台車なんて初めてなんで、懐古よりも最新鋭の最高級をとってしまいました。夜の10時東京発、翌朝7時高松着。部屋はきれいで、ホテル並みのアメニティもついていて、これはゆったり朝まで寝られるわ、と思いながら横になりました。が、やっぱりけっこう揺れる(笑)、断続的に起こされました。

 朝の瀬戸大橋を渡りながら四国への旅の感慨を噛み締める――というのが当初の予定だったのですが、着替えてるあいだに列車はあっというまに瀬戸大橋を渡り終えてしまって、気づいたらすでに内陸。海ほとんど見てません(がっくし)。そして、まもなく終点高松。松山に住む友人に駅前のちょいディープな讃岐うどん屋を教えてもらっていたので、さっそく行ってみるも、このあたりにあるはずだという一画がなんと更地に(がっくし)。それでも讃岐に来たなら朝ごはんはうどんでいかなければ――ということで、駅に戻って構内の「連絡船うどん」(いまは東京駅にもあるんだけどね……)で、かけを一杯。おいしかったです。つるつる。

 それから栗林公園へ行って、屋島へ行って、源氏はここまで平氏を追ってきたのかという壇ノ浦を眺めて、駆け足の讃岐観光は終了。その足で阿波に向かいます。高松から特急一時間ほどで、今夜の宿の徳島。「阿波踊り会館」に行って、毎日やってる阿波踊り実演の夜の部を見ます。かっこいー。いつか八月の本番を見てみたいものですね。夕飯はラーメン。

 つぎは土佐だ。徳島から特急に二時間ちょっと乗って高知。ほとんど乗り鉄になってきています。高知に来たなら、やはり桂浜から太平洋を望まねば。坂本竜馬の像は、想像をはるかに超えてでかかった。大志のある人間はこうでなくては。非常に説得力があります。市内に戻って、これも友人教えてもらった居酒屋で夕食。わさびとにんにくで食べる鰹のたたき、こんなにたくさん、こんなに安くていいんでしょうか? ついつい酒が進んでしまいます。

 翌日は高知城に行って、有名な山内一豊の妻と馬の像を見て(殿の像はないのね……)、酒匂とビールで昼食とし、今度は高速バスに乗って四ヶ国目の伊予の国へ。山を越えて二時間半、車中の友は『坂の上の雲』。この長大な小説、松山に着くまでにある程度まで読めるだろうと思って数巻分もってきたのに、まだ一巻目ですよ(涙)。もっと前々から読んでおくんだった……。

 松山はさすがの観光地。お城にのぼるロープウェーやリフトが思いっきり旅行気分を盛り上げてくれます。道後温泉の入り口には足だけ浸かれる足湯があって、いきなり温泉街気分満点。『坊ちゃん』にも出てくる道後温泉本館で一風呂浴びたあとは、手慣れた従業員さんが皇室専用の浴室とトイレを案内してくれます。この界隈では、坊ちゃん団子に坊ちゃん列車、地元愛媛出版社による注釈つき坊ちゃん本まで売ってました(写真参照)。そしてやっぱり酒と肴が旨い、旨すぎる。さらにありがたい友人のおかげで、地元の人とマニアしか知らないだろうと思われる、『坂の上の雲』の主人公の一人、秋山兄のお墓にも案内していただけました。酒好きだった彼の墓前には、ちゃんとお酒が供えてあったよ……。

 四国の旅もこれで終わり。帰りは列車で今治に出て、そこからバスで、瀬戸内海の小さな島々をつなぐ「しまなみ海道」を通って福山まで。この日はきれいに晴れて、島と海がくっきり見えました。瀬戸は、日暮れて、夕波小波〜の歌を思い出していたら、バスの車内でもそのメロディーが流れてきて、なんか恥ずかしかったわ。駆け足の五日間でしたが、楽しかった。次回はもっとディープなところに案内したい、と友人も言ってくれていますので、またの機会を楽しみに、がんばって働きたいと思います。

(しおばら みちお)







日々の泡

塩原通緒(2003.10.3更新)


すみません。三ヶ月ぶりです。こんにちは。

二年前にも書きましたが、いまもって小説はもっぱら新聞の連載で読んでます。
(つまり外国の小説は近年ほとんど読んでないということで。)
当時読んでいた角田光代の「八日目の蝉」と吉田修一の「悪人」は、のちに書籍化され、どちらも高い評価を得たようです。
それらの本の「好評増刷!」の広告を見ると、なんだか非常にトクした気分が。
書籍代を儲けたような気がするというか。
新聞購読料の元を取ったような気がするというか。
いやいや世間の評判に関わらず、どちらも読みながら自分で面白いと思っていた物語ですから、そんな安い満足感はオマケのようなもの、いえいえ恥ずべきものでございましょう。

その二作のほかにも、荻原浩の「愛しの座敷わらし」や松浦寿輝の「川の光」など、それまで名前もよく知らなかった作家さんの小説を楽しめたり、縁あって大江健三郎との公開対談を聞きに行った大江賞( by 講談社)第一回受賞作『夕子ちゃんの近道』の著者、長嶋有の最新作「ねたあとに」を読めたりと、そういうことではないと言いつつ新聞小説ってやっぱりお得――と思っちゃうせこい心根はなかなか治らないものでございます。

で、目下読んでいる小説は。

まず小池真理子の「ストロベリーフィールズ」。これまで小池真理子はずっと食わず嫌いだったもので連載開始直後は素通りしていたのですが、ある日ふと読んでしまい、そのときから続けて読むようになってしまいました。ずっと食わず嫌いだったものですから今でもこの小説を面白いと言うことにそこはかとなく抵抗があるのですが、欠かさず読んでいるのだから面白いのでしょう。最後に小池先生すいませんでしたと謝れることを期待して終わりまでつきあいます。

藤野千夜の「親子三代、犬一匹」。このかたの小説も初見ですが、こちらには何の先入観もないので、普通に読み始めたものの序盤ではまだいまひとつ乗りきれておりません。吉田修一も最初はそうだったので、話のテイストはまったく違うけれど、こちらも今後の展開に期待します。

それから島田雅彦の「徒然王子」。私、十年以上前に読んだ島田雅彦の何冊かの小説が好きでして。この人のエッセイやテレビでの話を面白いと思ったことはほぼ一度もないのですが、小説だけは、あの端正な顔をした人の中のぐちゃぐちゃしたものがうまい具合に疾走感につながっているような気がして、文章がどうこうとか意味がどうこうとは無関係に、面白いと思わせてくれたのでした。1999年の『自由死刑』を最後にずっとご無沙汰していたのですが、ありがたくも今回の新聞連載で久しぶりに再会。しばらく見ぬ間に壮大な作風に様変わりされていたようで、本作も主人公が秦の始皇帝時代から源平の時代に豊臣の時代と、前世を順々にめぐっていく話となってます。NHKの大河ドラマはネタに尽きてきちゃってるんならいっそこれをドラマ化したらいいのに、一年かけてやったら面白くなるんじゃないかなあ、でも現世の主人公が日本によく似た某国の王子というそもそもの設定が大いにまずいか、などと思いながら読んでます。内澤旬子の挿絵も綺麗でいいな、と。

ま、最近はそんなところです。


(しおばら みちお)







日々の泡

塩原通緒(2008.11.3更新)


 金融危機ですね。
 私のユーロ預金も……。微々たる額だから損失もたいしたことないとはいえ、みるみるうちに50円以上も下がっていったときには開いた口がふさがりませんでした。もうこうなったらどこまで下がるのかと逆に興味がわいてきましたが、ここ数日でどうやらひとまず下げ止まった様子。
 しかし私の老後の小遣いなどはともかく、世の中には本当に切実に困ってらっしゃる方がたくさんいるのでしょうね。アイスランドなどは国家まるごと大変な事態になっているらしく。何事もシステムが高度に洗練されると、いろいろと便利なようでいて厄介なものです。風が吹けば桶屋が儲かる、とは申しますが、いまはいったい誰が得をしているのでしょうか?

 そんな折、ささやかながら景気浮揚のために――というわけでもありませんが、うちではテレビを買い換えました。調子が悪くなってきても長らくなだめすかしながら使ってきたアナログのブラウン管テレビが、ついに言うことを聞かなくなったので。ハイビジョン対応のデジタルテレビ、出始めのころは一インチ一万円と言われていましたが、いつのまにか約半額にまで下がっていました。
 ではこの際だから、と、あわせてブルーレイレコーダーも購入しました。DVDレコーダーをすっ飛ばして、ビデオデッキからいきなりブルーレイ。いやあ、録画機器のシステムも、乗り遅れているあいだにえらく高度に洗練されちゃってたんですね。ハードディスクにがんがん落としていけるのは便利でいいけれど、録画モードが10種類ぐらいあって、しかも初めて聞くアルファベット表記ばかりで何が何やらさっぱりわかりません。せめて何の略語だか書いといてくれればいいのに……。ディスクに落とすにも、録画方式の種類によっては、ほかの機器で見られなくなっちゃうらしいし……。テレビ番組の録画ごときでアタマ使いたくないんだけどなあ……。
 ま、これもすべては慣れの問題。きっと来月にはバリバリ使いこなせるようになっているでしょう。そしていつか、お宝映像の入った古いビデオテープのディスク化計画を完遂するのだ。


(しおばら みちお)